ヴァッレ・ダオスタ(Valle d’Aosta)に関する言語社会学的調査と考察― 重なり合い変動する「層(strati)」、溶解する「端(fini)」、「島(insularità)」がもつ“共成”の「智」 ―

Résumé : ヴァッレ・ダオスタ州(Regione autonoma di Vale d’Aoste/Région autonome de Vallée d’Aoste)は4,000メートルを越える山峰 を持つアルプス山脈内に位置し、西側をフランス、北側をスイスと接し、東と南をピエモンテ州(Regione di Piemonte)のトリノ県(Provincia di Torino)、ビエッラ県(Provincia di Biella)、ヴェルバーノ=クジオ=オッソラ県(Provincia del Verbano Cusio Ossola)と接するイタリアの州である。その面積は3,263㎡で、これはイタリアの州の中では最も小さい州であることを示す数字である。また人口は119,020人であり、イタリアで最も人口密度が低い州である 。日本では古代ローマ時代の遺跡が多数残る「アルプスのローマ」として紹介され、主として観光地として知られているほか、山岳スキー、登山などのスポーツ、レジャーができる行楽地としても知られている 。 州のほぼ中央に位置する州都アオスタ市までミラノから高速長距離バスで約2時間30分、列車なら更に時間がかかるイタリアのいわば辺境に位置するこのヴァッレ・アオスタ州で、かつて、そして現在もなおフランコ=プロヴァンス語が話されていること、さらには憲法と同等に位置づけられる「ヴァッレ・ダオスタ州のための特別規定(Statuto speciale per la Valle d’Aosta/Statut spécial pour la Vallée d’Aoste)」(以下、「特別規定」とする)が1948年に定められた結果、立法・行政・財政についての自治権が与えられ、現在に至るまでイタリア語と並んでフランス語も公用語として認められていること、またドイツ語起源の言語も一部の地域で話されていること、そしてそのような多言語状況が多言語化を推進するヨーロッパの注目を集めてきていること は日本では比較的まだ知られていない。 そのような地政学的辺境性と政治的・言語社会的複合性によって性格づけられるヴァッレ・ダオスタ州に暮らす人々のアイデンティティはどのような語りを受容するのか、またそこに暮らす人々は何を自らのアイデンティティの拠り所として考え、さらに辺境の外に向かってどのような関係を構築しようとしているのか。そのような問題を、新原道信が提示した「「辺境」ヨーロッパの人々が培ってきた“共成”の“智(cumscientia, local knowledge)”」という観点から考察し、「新たな21世紀“共成”システムの構築」 の可能性を探ることが本稿の目的である。 新原は自らが研究代表者となって2004年度から3年間、日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究(B)海外学術調査)を受け、「21世紀“共成”システム構築を目的とした社会文化的な“島々”の研究」を研究課題とした研究をおこなってきている。この研究の中で中心的な視点として挙げられている「島々」あるいは「島嶼」(insularità)という概念は、新原が共同研究者であるアルベルト・メルレル(Alberto MERLER)とともに主として南イタリアのサルデーニャ(Sardegna)の社会を調査し、そこに住む人々と長年交流を重ねてきた結果として構築されたものである(新原、1992)。新原らは、一般的に孤立し、隔絶された辺境と考えられている地を「島」(isola)と考え、それを客体・実体として(insularità(伊)/insularité(仏))だけではなく、政治的・文化的一体性を持つ集合表象として(insularismo(伊)/insularisme(仏))、さらにはそこに住む人々とその土地との間に歴史的連続性を持って形成される固有の関係が内在化された心意現象として(insulitàあるいはinsolità(伊)/iléité(仏))捉えようとした(ibid. : pp. 156-159)。さらに新原は、「寄寓者」としてフィールドに入り込んでいるメルレルと自らを比較して、自らを「旅人」として位置づけ、「旅人」の視座から明らかにされる、地域住民の個々人が持つ「根(radice)」 の特性を、「“共成”システムの構築」の可能性を視野に入れて、以下のように述べた。 ある社会にとって固有の「根」の諸要素を有する者同士であっても、むしろそうした「島」の内部における即自的な多様性・複合性を対自化することなしには、深いところで結びつきを得ない。このような「島」の内部における即自的な差異と非同一性を対自化する回路は、他の「島」の住民との結びつきにおいても応用可能なものである。(ibid. : p. 165) 新原が構築したこの「根」という概念は、ある地域を記述する際に、記述の視点をその地域の自然環境、歴史・文化、心象化された経験のダイナミックな結びつきに向けさせるだけでなく、その地域の外から外への広がり、他の地域との繋がりに導くものである。その意味において、この概念は、地域の表面的な研究、あるいは地域研究が陥りやすい閉塞性を超える可能性を持つものであるということができる。 このような視座から、本稿ではまず、ヴァッレ・ダオスタ州では「島嶼性(insularità)」のどのような位相がより顕著に現れ(1.1.)、他の位相とどのように結びつくのか(1.2.)、さらにそれはそこに住む人々にどのように内在化されているのか(1.3.)を明らかにしていく。続いて内在化された「島嶼性」がそこに住む個々の人々のアイデンティティとどのように結びつき(2.1.)、さらに他の「島」に住む人々の「島嶼性」とどのような関係を持ちうるのか(2.2.)、またそのような「島嶼性」は「島」を包括しようとする今日的な波から具体的にどのような問題を突き付けられているのか(2.3.)を考察する。 本稿でおこなう考察は、2006年3月12日から17日と2007年3月3日から12日に筆者が実施した現地調査の際に取った記録 、特にその調査の中で得られた資料、調査の過程で経験した現地の人々との出会い、現地の人々に対しておこなったインタヴュー、帰国後に日本で収集した資料に基づく。
Type de document :
Rapport
[Research Report] 中央大学. 2007, pp.48-89
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Contributeur : Fumiya Ishikawa <>
Soumis le : lundi 27 mars 2017 - 15:59:51
Dernière modification le : samedi 14 octobre 2017 - 01:12:44

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Fumiya Ishikawa. ヴァッレ・ダオスタ(Valle d’Aosta)に関する言語社会学的調査と考察― 重なり合い変動する「層(strati)」、溶解する「端(fini)」、「島(insularità)」がもつ“共成”の「智」 ― . [Research Report] 中央大学. 2007, pp.48-89. 〈hal-01496533〉

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